まるをです
今日は僕が高校生の時、祖母が救急車で運ばれた時のことをお話したいと思います
よければ見てやって下さい
あの日
あれはそう、桜もすっかり散った5月…
あるいは6月か7月…ひょっとしたら12月だったかもしれないが
その辺りは忘れたので5月だったということにしておく
僕は当時17歳。
職業:高校生。部活:バレーボール部。彼女:無し
そんな感じのどこにでもいる普通の童貞だ
今日は日曜日。AM 11:30
その日はとてもいい天気で、何ならこれから素敵な僕らの青春が始まるんじゃないかってくらいの快晴だった
『今日はなんかいいことあるかもな…』
既に半日を経過しようとしているにも関わらず、僕は物語の主人公を気取る中二病を発動しながら、自室から出てパジャマ姿で居間へと向かった
そう、今しがた目覚めたのだ
居間に入るとオカンがキッチンにいて、弟がテレビゲームをしていて、そして祖母ことおばあちゃんがコタツで横になっていた
僕もとりあえずコタツに入る
そして『PKファイアー!PKファイアー!』と連呼するネス、というかテレビ画面を何となく見ていた
するとオカンが『まるを、お昼ラーメンにする?お好み焼きにする?』
と新妻みたいな感じで聞いてきたので、僕は
『逆にかつ丼で行こう』
と言うと、オカンは
『かつ丼?あそう、わかった』
と言ってきた
この家では僕がボケ担当なのだが、オカンはアホなので僕のボケが伝わらない
そして横目で弟を見ると、何故かほくそ笑んでいた。なんだコノ野郎
それはさておき、僕がボケ~っとしていると、オカンがこちらに近づいてきて
『お義母さん、起きて!お昼だから!』
そう言って、コタツで横になるおばあちゃんの肩を揺らした
どうやらおばあちゃんは寝ていたようだ
微かに寝息、というかイビキ?が聞こえる
横になっていたが、コタツのぬくもりで眠くなってしまった
といったところだろう
しかしおばあちゃんは起きない
何度揺らしても、何度呼びかけても目を覚まさない
ずっと目を閉じたままイビキをかいて寝ている
そんな状態であったが、僕はこの状況を特に何か感じることもなくボケっと眺めていた
例えばもしおばあちゃんの意識が全く無かったら
極端な話、呼吸が止まっていたとかいう状況だったらかなり動揺したんじゃないかと思う
でもおばあちゃんは寝ているだけ
いや全然起きないじゃん。どんだけ眠いんだよ
みたいな風に思うだけだった
弟もゲームを続けていたし、同じように思っていたのかもしれない
でもオカンだけは違った
目を覚まさないおばあちゃんに対し、深刻な表情を浮かべながら絶えず声掛けを続けている
この時、オカンが知っていたのかどうかは知らないが
実はおばあちゃんの状態は、ある深刻な状況に酷似していた
目を覚まさない状態のイビキ
今でこそ医療関係の職場にいるから分かるのだが、実は目を覚まさず大きなイビキをかいて寝ている場合、脳梗塞等の脳疾患が疑われることがある
普段からイビキをかいているとか、寝る前に激しい運動をして疲れているとか
何らかの理由があってイビキをかいているなら問題はない
しかし普段イビキをかかない人が急に大きなイビキをかきだしたりする場合…
特にそれが高齢者ともなれば、何らかの脳疾患を引き起こしている可能性が高くなる
ただ寝ているように見えて、実はおばあちゃんはかなり危険な状況にあったのだ
救急車へ
全く目を覚まさないおばあちゃんに、僕も弟も少しばかり心配になってきた頃
「これはヤバイ」と察したのか、オカンはすぐさま電話と取り、慌ててボタンを叩いた
「もしもし!救急車お願いします!義母が目を覚まさないんです!」
オカンは電話口で声を張り上げてそう言った
そう、119番通報をしたのだ
この電話を機に、僕もようやく「おばあちゃんがやべえ」という事実に気付く
冷静に考えて、どんなことをしても目覚めない状況を言うのは通常ではありえないことだ
その「ありえないこと」を目の前にしても、僕は深刻な状況であると捉えず、まるで思考することなく現状をただ眺めていた
典型的な平和ボケだ
自分の身や周りに不幸な出来事が起こるということを考えてすらいない
危機や危険は、ある日突然何の前触れもなく訪れるのだと言うのに
僕はまるで他人事のようにしか見えていなかった
その事実に、僕は119番という通報で初めて気づかされたのだった
119番通報をしてから10分と経たず、救急車は大きなサイレンと共にうちに到着した
幸いというべきか、僕の実家は中々の田舎で近所に家もそんなに無く、野次馬っぽい輩はほぼいなかった
到着した救急車だったが、中々うちの駐車スペースに車を止めることができない
というのも、僕の実家は微妙な高低差があるところに建っていて、坂を上らなければ駐車することができない
距離で言えば10mもないくらいだが、幅も狭く角度もあるため、慣れていないと若干てこずる場合がある
玄関までの導線を考えるとバックで行かなければならないし、しかもオカンの車も停めてある
救急隊も随分と停めにくかったのだろう。中々駐車スペースまで入って来れなかった
こういった救急時というのは一分一秒を争う
対応が遅れるだけリスクは高くなるのだ
オカンもこれまでになく動揺している
早く、早く来いよ!救急車!!
そんな苛立ちすら覚え始めながら、僕はおばあちゃんの方に目をやった
「…!!」
そこで僕は信じられない光景を目にした
おばあちゃんは、目を見開いてこちらを見ていたのだ
おばあちゃん、起きる
おばあちゃんは目覚めた
いつから目を開いてたか知らんが、とにかくおばあちゃんは復活していた
「…お、お母義さん…?」
オカンもその様子に気付き、おばあちゃんに声をかける
するとおばあちゃんはコタツから這い出るようにゆっくり身体を起こし
「…昼できたんか?」
確かに、そう言った
いや、ちょっと待ってくれおばあちゃん
今お昼どころの話じゃないんだぜ
外見てみ?救急車いるよ?
うちの庭に救急車いてるよ?
間もなくあの人達、うちの中に入って来るよ?
アナタ運びに入って来るよ?
とか色々思ったが、おばあちゃんはまるで状況を理解していない
するとオカンが
「お母義さん!救急車!全然起きなかったから救急車呼んだの!」
とかなり焦った様子で告げる
するとおばあちゃんは
「…お?」
と言った。
いや「お」じゃねえし
救急車と共に去りぬ
僕らは嫌な予感がしてきた
ひょっとして、おばあちゃん、元気じゃね?
そんな言葉が頭を過る
馬鹿な、そんな、嘘であってくれ
いるんだよ。そこに救急車いるんだよ
なんで起きるんだよ
いや起きてくれていいんだけど、なんで今、このタイミングで
しかし何事もなかったように起きるんだよ
せめてこう、ちょっとめまいがするとか
そういう感じであってくれよ
本来こんなことを考えるのは不謹慎なのだが、僕はこの時ばかりは「頼む、体調を崩してくれ」と願わずにはいられなかった
そんなことを考えていると、いよいよ車を停め終えたようでガチャガチャとストレッチャーとかの準備をし始める救急隊の姿が窓の外に見えた
焦ったオカンは慌てて玄関を飛び出し
「すみません!ちょっと、ちょっと待って貰えますか!」
と言って救急隊の動きを制止した
身体を張って救急隊を止めたのだ
いや、落ち着けオカン
気持ちはわかるけど、救急車呼んだ当人が救急隊をブロックする状況なんて聞いたことないよ
もう来ちまったもんはしょうがないよ
とりあえずおばあちゃんを連れてってもらおうよ
と思っておばあちゃんを見ると、おばあちゃんはいつの間にやら化粧をし始めていた
どうやら状況を何となく察し、慌てておめかしを始めたようだった
いやおばあちゃん!あんた化粧してる場合じゃないから!
そこ救急隊いてるから!ストレッチャー待ち構えてるから!
そして何とか救急隊の制止を続けるオカン
カオス!!
結局普通に歩いて救急隊に乗り込んだおばあちゃんは、オカンと共に病院へと向かって行ったのだった
その後
特に異状なく元気でした
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